現代の暮らしに合わせた古民家再生住宅|古民家再生見学ツアー(前編)

料理は景色を眺めながら

正田さん

こちらがダイニングキッチンです。
最近は対面式キッチンが多いと思うのですが、ダイニングスペースを少しでも広く取れるように、壁付けキッチンになっています。キッチンで作って後ろを向くだけの動線ですぐに料理が出せる形です。
古民家の場合は間取りが決まっていることが多いので、6帖あるこの幅で対面式にしようと思うと、キッチンがかなり小さくなったり、柱が抜けないこともあるので、制約をうまくクリアしながらこの形になりました

もし家編集部

この形がベストだったんですね

正田さん

お施主さんも「窓から表にある庭木を見ながら料理をするのが楽しい」と言われていましたね

もし家編集部

家の中を見ながらがいいのか、外の景色を見たいのかの嗜好にもよるということですよね。必ずしも対面がいいわけでもないですからね

正田さん

そうですね。こちらのお施主さんは、景色や風通しの要望と、できる限りシンプルに使いたいということだったので

もし家編集部

ちなみに改装してからどれくらい経つのでしょうか?

正田さん

築は145年で、リフォームしてから今年で10年です。

もし家編集部

すごくきれいに住まれているんですね

正田さん

そうですね。大切に使っていただいてうれしいですよ

もし家編集部

すごく味の出ているところもありますよね

正田さん

こういう建物は10年経っても飽きがこないんです。古くなっている感じではなく、味が出てくるんですね。そちらの扉も建てた当時は白っぽい色だったんですよ

改築当時の扉(写真提供:なんば建築工房)

もし家編集部

今よりも薄めな色だったんですね

正田さん

古民家の梁と合うような雰囲気に色が落ち着いてきました。この扉、実は食器棚が入ってるんですよ

もし家編集部

まさか食器棚とは思いませんでした!

正田さん

目線を遮れるようにね。最初はガラスにする案もあったのですが、古民家の雰囲気に合うように「舞良戸(まいらど)」というスギの板戸を桟に組んだ扉をつけました。古民家とか昔のお家では軽くて使いやすいので建具で使われていることが多いです

もし家編集部

ガラスよりもこちらの方が雰囲気が馴染んでて、生活感も出にくい感じがあるんですね

正田さん

お施主様もすごく気に入っておられましたね

夏は太陽を遮り、冬は陽を招き入れる先人の知恵

キッチンからつながる畳のリビングスペース(改築当時)(写真提供:なんば建築工房)
客間から家族の集うリビングへ(改築当時)(写真提供:なんば建築工房)
ダイニングキッチン側から見た畳リビング

正田さん

こちらは台所続きのリビングですが、リビングといっても畳です。昔の客間だったところを台所からつなげています

もし家編集部

もともとは客間だったんですね

正田さん

玄関の大引天井は手が届くような高さだったんですが、他の部屋の天井に比べても客間になると急に天井が高くなっています

もし家編集部

客間はこういう仕様が多いんですか?

正田さん

多いですね。昔は冠婚葬祭などで舞を踊ることもあるので客間は天井高が高いんです

もし家編集部

いろんなシーンで使える、ホールのような位置づけだったんですね!

正田さん

プラス、天井材や床の間があったり、客間には良い材料が一番使われているのが古民家の特徴です

もし家編集部

なるほど、招き入れる場所は一番いい場所なんですね

正田さん

リビングは8帖あって、このまま縁側と外につながります。窓から約1mぐらい庇・軒が出ているので、岡山の太陽高度が夏場で79度なので、ほぼ直射日光が入ってこない寒い季節になると、中央のこたつあたりまで光が入って暖かいんです

もし家編集部

冬場はかなり長く日が入ってくるんですね

正田さん

昔の古民家は断熱材がないですから、四季を利用して日を入れたり遮断したりして温度調整をしていたんですね

もし家編集部

昔の人の知恵なんですね

正田さん

昔は古民家とか和風の家は、客間と、二間・三間続きで畳のお部屋があって、家族の部屋は暗くて寒いところで一番いいところが客間というのが多かったんです。
でも、現代的な使い方にしようとなった時は、客間の場所をリビングにするのはどうかと提案するようになりました

もし家編集部

やはり客間が一番リビングに適している大きさですよね

正田さん

そうですね。広さもそうですし、日の入り方とか、庭が見えるとか、色々な面で最適なスペースが客間ですね。通常でいうと畳の客間を壊して全部リフォームする発想をしがちですが、元々の客間を生かしてリビングにしてしまう。今回は畳のままですが、板の間でも大丈夫です

もし家編集部

となりの部屋は板の間に変えているんですね

正田さん

そうです。畳だったところを板の間に変えています。板の間にして、古民家の雰囲気とソファって意外と合うんです

畳リビングとつながる板間の部屋(改築当時)(写真提供:なんば建築工房)

もし家編集部

板間の部屋の方は、縁側を無くしているんでしょうか?

正田さん

そうです、縁側を無くして広くしました。
そして、何度も出てくる大引天井ですね(笑)

もし家編集部

「大引天井」覚えました!(笑)

正田さん

建具が入って縁側になっていましたが、6帖の部屋と縁側部分が1帖半なので、合わせて7帖半の部屋になっています

もし家編集部

部屋が広く取れるようになったということですね

正田さん

縁側の建具が入っていた鴨居と長押部分を取ってしまって、一つの部屋のようにすればいいんですけど、やはりこれも構造躯体なので、このままですね

もし家編集部

ここも構造上、外せない部分ですね

正田さん

リフォームでも柱などの構造を隠して見えないような仕上げをしてしまう方が、技術的にもやりやすいんですが、残しながらやるのは簡単なように見えて結構難しいんですよ